『ズートピア』を読む

一番病が重い感じになる予定のページ。更新はゆっくりです。

単語で読む『ズートピア』

本ページの引用は "Disney Zootopia Cinestory Comic" 、"Disney Zootopia THE JUNIOR NOVELIZATION" 、北米版Blu-ray Discのミックスです。日本語セリフは、字幕版、吹替版の記憶をベースに管理人が入れております。誤訳等あるかと思いますがご容赦ください。

ジュディがquitした日

以前から不思議だったことの1つに、ニックがこの映画において「夢を忘れた詐欺師」と紹介されがちだということがありました。じゃあニックの夢ってなんだったんだっけ、彼はそれを忘れたんだっけ? ということです。これについてはまあちょっと保留なのですが、一方、作中ではっきり「夢をかなえた」と発言している動物がいます。言わずとしれたジュディです。

  • 絶対に"quit"しない!
ジュディが 「警察官になって世界をよりよくしたい」 という夢を抱いていることは、映画冒頭の劇ですでに語られています。

"I can make the world a better place! I am going to be a police officer!"
「私は世界をよりよくすることもできる! 私は警察官になるわ!」

警察学校の卒業式で officer Hopps としてZPDに配属されることが決まり、ベルウェザーからバッジを着けられた時点で、ジュディは夢の一部をかなえています。

"Congratulations, officer Hopps."
"I won't let you down! This has been my dream since I was a kid.(p30)"
「おめでとう、ホップス巡査」
「あなたを失望させません(ご期待に応えます)。(警察官になることが)子どものころからの夢でした」

しかし、 ここに至るまでも、警察官としてZPDに配属されたあとも ジュディは ずっと周囲から "quit" するよう言われ続けています。

まずはギデオン・グレイから。友人が横取りされたチケットを奪い返すため、ギデオン・グレイに食ってかかったジュディ。ギデオンに突き飛ばされて尻もちをついてしまいますが鼻面を蹴り上げて応戦します。その際にギデオンが言ったのが下記の台詞。

"Oh, you don't know when to quit, do you?"(p15)
「お前、"辞め"時を知らねえみてえだな(諦めるってことを知らねえのかよ)」

この台詞を受けて、ギデオンが去ったあとジュディが言った台詞がこちら。

"Well, he was right about one thing: I don't know when to quit.(p18)
「ギデオンは一つ正しいことを言ったわ。私は"辞め"時を知らないのよ(絶対諦めない!)」

脱げてしまった帽子をかぶりなおしながら宣言するジュディの強い目が印象的なシーンです。
この言葉のとおり、ジュディは何度"quit"しろと言われても絶対"quit"しないのです。

警察学校ではシロクマ教官に 「辞めて帰れ、ぼさぼさウサギ!」 と言われていますし……
"Just quit and go home, fuzzy bunny!"(p25)

ニックには 「気まずいんだろ? 辞めたって全然恥ずかしくないんだぜ?」 と言われています。
"Does this make you uncomfortable? Because there is no shame in calling it quits."
"Yes there is." "Boy, That's the spirit." 
「恥ずかしいわよ(捜査は続けるわ)」「そう来なくっちゃ」 (p162)

さらに、ロープウェイ乗り場ではボゴ署長に辞職を迫られます。
"Two days to find the otter... or you quit. That was the deal. Badge. (p240)"
「2日でカワウソを見つけるか、辞職するか。そう決めたな。バッジを」

ありとあらゆる場面で、ありとあらゆる動物からジュディは "quit" することを求められ、提案されています。
しかし彼女はこれらの言葉には従いませんでした(ボゴ署長の言葉には従いそうになりましたが、ニックから助け舟が出ました)。


  • 絶対に "quiit" しなかった、のか?

では、彼女は最後まで "quit" しなかったのか? いえ、そうではありませんでした。

件の会見後、ニックを傷つけてしまい、ズートピアを肉食動物と草食動物が反目しあう場所に変えてしまった、世界を壊してしまった(と感じている)ジュディは、草食動物の代表として警察の広告塔になることを求められ、ついに上司を前に辞意を告げます。

"Judy, You've worked so hard to get here."
"Don't give yourself so much credit, Hopps. The world has always been broken. That's why we need good cops -- like you."
"It's what you wanted since you were a kid. You can't quit..."(p308)
「ジュディ、あなたは大変な努力をしてここまで来たのよ」
「(世界を壊してしまったなどというのは)自分を過大評価しすぎだ、ホップス。世界はいつだって壊され続けてる。だからこそ優秀な警察官が必要だ、お前のような」
「子どものころから望んでいたことでしょう。辞めちゃダメよ……

さんざんquitしろ、quitしていいんだぞ、と言われても一切ゆるがなかったジュディですが、初めてquitしちゃいけない、と言われたこのシーンで、彼女は自らバッジを外し、ボゴとベルウェザーにバッジを返してしまいます(ジュディの胸にバッジをつけたのも、ベルウェザーでした)。※1


  • バッジだけではかなわない夢

初めて胸にバッジをつけてもらったときジュディはこう言いました。

This has been my dream since I was a kid.(p30)
「(警察官になることが)子どものころからの夢でした」

しかし、バッジをつけたあと彼女がボゴに命じられた仕事は、夢見た "policce officer" の仕事ではなく "parking duty" でした。ボゴ署長はかろうじてこの仕事を "parking duty" と表現しますが、それ以外の動物は、ジュディのオレンジ色のベストを見て、彼女を "meter maid" (女性駐車違反監視員)と呼び 非"real cop"として扱います。
この2つの仕事は明確に別の仕事なのです。

アイス屋さん "Hey, you're gonna have to wait your turn like everyone else, meter maid." "Actually... I'm an officer." (p88)
ニック "You'll never be a real cop. you're a cute meter maid though. Maybe a Supervisor one day! Hang in there..." (p114)
ボニー "Oh my sweet heaven -- Judy, are you a meter maid?"
スチュ― "She's not a real cop! our prayer s have been answered!" (p120)
マクホーン "Hey meter maid! wait for the real cops!" (p130)
ニック "Well then, they shoulud have gotten a real cop to find him." (p187)

ジュディの夢は、バッジをつけてもまだ半分もかなっていませんでした。
バッジをつけてもなお、彼女は "real cop" の扱いを受けることができない。
さらに、そのバッジをつけたまま、彼女は(彼女自身の認識によると) "make the world a worse place" してしまう のです。

怒ったまま会見場を後にしたニック、デモや街中で反目しあう動物たち、ボイラー室へ異動させられたクロウハウザー(一方ベルウェザーの部屋がボイラー室から眺めのいい市長室に変わった皮肉にジュディは気が付いたでしょうか)、ジュディの目にうつる景色は「世界が壊れてしまった」ことを訴え、彼女はバッジを外す決意をします。


  • ジュディの目にうつる景色
(ニックの言う "cute, fuzzy-wuzzy little tail between her legs" は長さ的に無理じゃないかと思いつつですが、いずれにしろ)失意のまま農場に戻ったジュディは
"Why did i think I could make a difference?"
「なんで何かを変えられるなんて思ったんだろ?」と弱音を吐きます。

ですが、ギデオンとの再会がジュディに事件解決のヒント、呪縛からの解放を与え、ジュディがニックと協力してみごと事件を解決した流れはご存知の通りです。

事件を解決に導いた最後の捜査においてジュディはバッジをつけていません。
officerでなくてもジュディはtryし続け、結果を出しました。

事件解決後、ジュディが取り戻したものは、例えばニックとの信頼関係、肉食動物と草食動物の子どもが仲よくサッカーボールで遊ぶ風景、受付に座るクロウハウザーの姿、そういったものでした。

しかし、おそらく事件中にも、子どもたちは仲よくサッカーボールで遊び続けていたでしょう。
ジュディの目にうつるのは世界の一部で、本当はボゴ署長の言う通り
"The world has always been broken. "
「世界はいつだって壊され続けている」のです。

"That's why we need good cops -- like you." 
だからこそ、彼女のような優秀な警察官が必要とされるのです。

ジュディ自身も再び、警察官として世界をよりよくするために努力し続けることを選択します。


  • 今日もコップには水が入っているか
2016年7月7日テキサス州で黒人男性射殺事件の抗議デモ中に、警察官12人が撃たれ、7月9日現在そのうちの5人が死亡しています。
一方、2016年に入ってから米国内で警察の発砲によって亡くなった人は508人。黒人はうち123人(24%)で、米国内の人口に占める割合(約12%)の倍になるということです。

『ズートピア』は、もちろんイコール アメリカ ではありません。
しかし、アメリカに住む人々が、警察官を夢見るウサギの少女が自身の中にある偏見に気づかされる物語を作る際に、彼らの念頭にあったのがアメリカの警察であったことは疑いようがありません。

ジュディが"quit"したかどうかについての文章を書きたいとこのサイトを作った時から思っていました。その時は(※1)のようなことを書きたかったのです。しかし、今回の事件で私が思う以上に、この問題が根深く、またジュディの決意がシビアなものであったことを痛感しています。

彼女は今日も glass half full (コップにはまだ半分も水があるわ) と言えているでしょうか。
ちょっと難しいかもしれません。
でも、たとえ今日 glass half empty (コップの水はもう半分失われてしまった) と思ってしまったとしても、半分水を失った世界はそこにあり続けるのです。
きちんと立ち上がって、また夢に向かって努力しつづけてくれるといいなと思います。


お付き合いありがとうございました! m(_ _)m


※1
他人からどんなに止められても言うことを聞かないのに、自分自身が納得いかない時には言葉をつくして慰留されてもバッジを外してしまう。ジュディは自分のなかに動機と判断の軸を持った強い女の子です。
一方アメリカで警察官をするということは命がけの仕事であり、ボゴ署長も適性がない(と思われる)部下、上長の命令に従えない部下を守り続けることはできません。
そんなボゴ署長が彼女を認め、はじめて "That's why we need good cops like you" と声をかけてくれたのに "With all due respect sir" と前置きをしながらも「私はいい警察官ではありません」と否定してしまうジュディを見ると、ちょっとは人の話聞いてあげようよ!? とも思います。

追記:
実は「作中ではジュディ以外にquitと言われた動物はいない」と書きたかったのですが、ゲイリーが言われていました。惜しかったです。
Gary, quit it! You're gonna start a howl!(p264)
「ゲイリー、やめろ! 遠吠えしちまうだろ!」

追記2:
ベルウェザー副市長の部屋で、ジュディ自身がまだ"real cop"としての評価を受けていないのに、ニックをほめてしまうシーンもとても好きなシーンです。ほめられたニックがまた嬉しそうで。
"Look at you. Well done, Jr.Detective. You know, I think you'd actually make a pretty good cop."
"How dare you."(p259)
「すごいじゃない、ちびっこ探偵ね。あなた絶対とってもいい警察官になるわ、そう思うでしょ?」
「よく言うよ」


2016.7.9作成


"fox" と "bunny" の言い分

ニックとジュディが初めて会った日に、ニックはジュディに下記のようなことを言っています。

"All right, look, everyone comes to Zootopia thinking they can be anything they want. Well, you can't. You can only be what you are."
「あのなあ、見てみろよ、ズートピアに来るやつらは皆、自分がなんでも望む通りの何かになれるって考えてるんだ。けどさ、無理なんだよ。お前はお前でしかいられないんだ

"Sly fox. Dumb bunny."
「(おれは)ずるいキツネ、(お前は)まぬけなウサギ」

ニックの言葉は、ある意味において真実です。私たちは自分以外の何者にもなれないことをすでに知っています。
小さなキツネ(じゃなかったけど)のフィニックに対して 「いつかゾウにだってなれるわよ、だってここはズートピアだもの」 という趣旨のことを伝えたジュディの理想主義は、行きすぎているようにも感じられます。


しかしストーリーが進むと、ふたりの認識に変化が生まれます。

ジュディが、上記のニックのセリフの直前に彼にくだした評価は
"some jerk who never had the guts to try to be anything more than a popsicle hustler!"
「あんたみたいなアイス詐欺師以上の何かになろうと努力する根性も出したことないとんちき(jerk)」 でしたが(※1)、
レインフォレストでマンチャスの話を引き出すことに成功したニックにかけた言葉は "Clever fox." (かしこいキツネ)でした。

さらにロープウェイでは、 キツネに対して世間がよくない固定概念を持っているなら、そのようにふるまう と言い放ったニックに対して、こんな言葉をかけています。

"Nick, you are so much more than that..."
「ニック、あなたはそんなじゃないわ、もっとそれ以上の……」

すいません、ここ日本語がぴったり来ないのですが、that(世間の固定概念)より何かいいものだ、ということが言いたいんだと思います。(※2)


ニックにも変化が訪れます。
捜査協力を求められた直後のニックは、「他の動物にそう呼ばれるのは少し……」とジュディが嫌がった "cute" という単語をあえて使って、ジュディをバカにしています。

"It's not exactly a place for a cute litlle bunny."
「小さくてキュートなウサギさんには、まったく向かない場所だぜ?」

ですが、マンチャスとのアクションシーンで命を助けてもらったことが、ニックのジュディに対する劇的な意識の変化のきっかけになります(Mr.ビッグの家での顛末があってのことですが)。

"Carrots, you just saved my life." 「ニンジン、お前は命の恩人だ!」 (※3)

そしてクリフサイドで遠吠えのまねをしてオオカミたちの監視をすり抜けたジュディを、ニックはこう評します。

"You are clever bunny." (かしこいウサギ)

お互い "Sly fox, Dumb bunny" でしかありえない、といった ニックの言葉が、自ら否定される瞬間 です。


さてもう一つ注目したいのは 真っ先にジュディを "Dumb bunny" 呼ばわりしたのはギデオン・グレイ であるという事実です。
ギデオンはジュディのほほを傷つけた後に彼女の頭を押さえつけながら、下記のように言っています。

"I want you to remember this moment the next time you think you'll ever be anything more than just a stupid, carrot-farming dumb bunny."
「次に、自分がただのバカ以外の何かになれるって思ったときに、この瞬間のことを思い出せよ! ニンジン農家のまぬけなうさぎ!」

ほほを傷つけられたこと同様、ギデオンのこの言葉も長いこと彼女に対する呪縛になっていたと思われます(ですので ニックに "dumb bunny" と言われたときのムカつきもハンパなかった のではないでしょうか)。


さておき、ご存じのとおり映画のラストでは、ふたりは親愛をこめて、互いをこう呼びあっています。

"Sly bunny." (ずるいウサギ)
"Dumb fox." (まぬけなキツネ)

ふたりはもう "Sly fox" と "Dumb bunny" ではないのです。


エンディングのジュディの挨拶を見てみましょう。

When I was a kid, I thought Zootopia was this perfect place where everyone got along and anyone could be anyting... Turns out, real life's a little bit more complicated(略)
「子どものころ、私はズートピアは誰もが仲良く暮らし、誰でもがなんにでもなれる完璧な場所だと思っていました。ところが蓋を開けてみたら、現実はもう少し複雑で……」 から始まるスピーチです。

We all have a lot in common. And the more we try to understand one another,
the more exceptional each of us will be.
But we have to try.
「私たちは多くの共通点を持っています。そして互いを理解しようとすればするほど、それ以上に相違点を持っていることに気づくでしょう。
しかし、努力しなければ」

Change Starts with you.
It Starts with me.
It Starts with all of us.
「変化はあなたから始まります。そして私から、私たちひとりひとりから」


ジュディ自身も、当初の「誰でもなんにでもなれる」発言をもう信じてはいない、ということが語られる内容です。
しかし、自分の限界にぶつかりつつ、過ちをおかしながらも、何かを変えようと努力し続けた結果、 "Sly fox" と "Dumb bunny" の関係は、お互いを、それぞれ違う「それ以上の何か」として認め合う までに変化しました。
さらにスピーチは、変化はあなた自身から始まる、我々の隣人を理解するよう、努め続けなければ、と続いています。

ひるがえって 私たち自身も常に「それ以上の何か」になるために、努め続けなければならない、というのが、『ズートピア』、そしてジュディが私たちに届けてくれる、大人には厳しすぎるメッセージ です。


さて、私たちは明日、何をしましょう?


お付き合いありがとうございました。 m(_ _)m


※1.出会って初日にニックを否定していたジュディですが、その非難の矛先はあくまで「ニックが自分をだましたこと」という彼の行いに向いており、あたりまえのキツネ差別でなかったことは確認しておきたいポイントです。jerkについては、また別途。

※2.セリフとともに、ニックの腕に手を添えたジュディに対してニックが取った対応は さっと腕を引き話題を変える でした。Jam cams じゃないだろう、今渋滞の話はしていない!

※3.そもそも、ジュディの捜査につきあってレインフォレストに来ているわけですし、直前、ジュディを先に乗せようとした結果ロープウェイに乗りそこねた彼を見ている身としては、お前、本当にいいやつだな、という印象です。


2016.6.27作成


消化したいメモ

・誰が誰を「jerk(とんちき)」と呼んだか
 ジュディはギデオン、ニック、ジュディのことをjerkと呼んだ。
 ギデオンはギデオン自身をjerkだったと回想した。


長々と書きたいこと

キャラの心情方面の話とストーリーの流れの話

・ニックの捜査協力態度の変化(一軒ずつ変わっていく)と吊り橋効果。
・ニック→ジュディに対する感情はどう変わるか、変わらないのか。
・ペンをもらったときのこと
・「肉食獣への偏見」「キツネへの差別」「ジュディの個人的体験」をわざと混線させているシナリオについて。農場のギデオン・グレイのシーンでの収束について。
・ニックとジュディの性格と行動について



ネットで見つけておもしろかった話

  • 同性愛者が見た『ズートピア』論 多様性と偏見を巡って KAI-YOU.net
 フリーライター須賀原みちさんによるキャラの内面の話。
 「5.私の見た『ズートピア』」の部分がおもしろい。
 須賀原さんは同性愛者とのことですけど、そこは特に考えずに読んで普通に興味深いです。

  • 最終更新:2016-08-14 22:01:12

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